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その後、松隆くんと合流すべく連絡を取り、指示されたとおりに三年四組の教室の前に向かった。松隆くんは大人しく壁に凭れて待っていたけれど、ぱっぱ、と袖の汚れをはらっているので、多分また誰かに暴力を振るった後だ。
「まつたか――」
「松隆くん!」
私が声をかけようとすれば、それよりも先に真剣な声が飛び込んできた。何事かと思えば、突然現れたメイド服の女子が松隆くんの手を握った。瞬間、松隆くんの目尻が苛立ちでピクッを震えた――ように見えたのだけれど「なんですか?」なんて柔和な笑みと声で返事をしたので、見間違いだろう。きっとそうだ。
「昨日、アカリのこと助けてくれたでしょ? そのお礼をしたいなと思って!」
一体なんのお礼をしてくれるつもりなのか、それはその人が着ているメイド服のお陰でなんとなく分かった。多分メイド喫茶にご招待してくれるんだろう。
しかし松隆くんの顔は至極迷惑そうだ。一刻も早くこの場を去ろうとしているのが私にさえ分かる。でも顔はやはり笑顔のままだ。
「……悪いんですけど、これから遼……友達と合流することになってて」
「遼って桐椰くんでしょ? じゃあ桐椰くんも一緒に、ね!」
さすが御三家、他学年にフルネームを知られるほど認知度が高い。松隆くんが桐椰くんの名前を出したのはミスだ。
「……なにしてんだ、総」
そして私達は最悪のタイミングで現れてしまったらしい。松隆くんは額を押さえる。
「……お前本当に馬鹿なんじゃないの」
「はあ?」
「桐椰くんもどうぞ! ほらほら」
「いや俺は――おい!」
ぐっと腕を引っ張られた松隆くんはすかさず桐椰くんの腕も掴んだ。逃がすまいという強い意志を感じる。これはもう逃げられない流れだな。
「どうせ今日の競技は終わったんだろ。小休憩だと思って付き合って」
「そうだよ桐椰くん、一緒に入ってあげてよ。メイド喫茶に一人で入るのは勇気要るもん、松隆くんの王子様キャラが崩れてメイド萌えキャラになっちゃうもん」
「遼、普段は我慢しろって言って悪かった。確かにうざい」
「だろ」
「二人共酷くない?」
「ま、それは置いといて、ここまでくれば遼の顔を売るほうがいいし。桜坂も含めて、来るよね?」
疲労困憊した顔が有無を言わさぬ表情に変わったせいで、私も桐椰くんも首を縦に振るしかなかった。



