彼方と別れた後に合流した桐椰くんは、まだ書生の恰好をしていた。
「悪い、手伝い長引いた。行くぞ」
「遼くんが謝るなんて珍しー……。着替えてないの?」
紺色の絣の着物に角帯、小倉袴。校舎内とはいえ足駄まで用意してあるあたり、文化祭委員のやる気はすごい。
手持無沙汰に帽子をくるくる回しながら桐椰くんは気怠げな表情で扉に凭れた。
「面倒くせぇ。あと多分この格好のほうが評価上がる」
「やーいナルシスト!」
「うるせぇ! 票集めは大事だって言われただろ!」
その目論見はまさしくドンピシャで、校内を練り歩くと常に黄色い歓声の的となった。特に休日になって一般客も混ざっていると、隣には手を繋いでいる私がいるにも関わらず一緒に写真を撮ってくれるように頼む人も多かった。
加えて、本命のBCCの競技も、昨晩の微妙な仲直りの成果か、特に問題がなかったどころか最高得点を二つ叩きだした。最高得点をゲットできなかった競技も、蝶乃さん・鹿島くんペアには勝ったので文句は言われないだろう。
「いやー、今日の首尾は上々でしたね」
「お前自分で言ってるより運動神経良かったしな」
「惚れ直した?」
「直すベースがねえよ」
BCCの受付でブレスレッドを外し、二人で「ふうっ」と息を吐いた。手を繋ぐ競技はこれで終了だ。
「ねぇ、これからどうする? 松隆くん達の様子でも見に行く?」
「あぁ、総が変にやらかしてなきゃいいけどな」
「ていうか遼くんは着替えないと。加勢するにもそれじゃできないよ」
「リンチされてる前提かよ……。まぁ動きにくいのは確かだけどな」
制服は第六西に置いているらしく、着替えのために第六西へ行くことになった。男女逆ならまだしも、桐椰くんが着替えるだけなので、「中入って座ってていいぞ」とお許しが出た。
とはいえ、見るわけにはいかないし見たいわけでもない。ソファでごろりと寝転がって見えないようにしている間、桐椰くんがパンッとシャツを広げる音がする。カチャカチャとベルトを締める音もする。視界のすぐ外で桐椰くんが着替えていると思うと、なんだか不思議な気持ちだった。



