そうだとすれば、と眼鏡を外し、ぼさぼさの髪を手櫛で整え、短く見えるように工夫した。それをまじまじと見ていた相手は暫く考え込んでいたけれど、不意に「あ!」と声を上げる。
「もしかして――」
「はいストップ! ここで騒ぐのやめて!」
その口を慌てて塞いだ。背伸びをしても届かないくらいの身長差はあったけれど、その動作で察してくれたことが何よりも重要だ。彼――彼方はすぐに口を噤んだ。
「……うん。えっと、うん」少し驚いたように何度か咳払いして「えーっと。何言えばいいかな。……あ、久しぶり!」
「……久しぶり」
そして、破顔する。まるで太陽のように眩しいその笑顔は、確かに私の記憶の中にあるものとそっくりだった。
「なんだぁー、びっくりした! どっかで会ったことあったかなーって考えたんだけど、まさか花咲高校にいるとは思わなかったから!」
そのままバンバンと肩を叩かれた。自分の力の自覚がないらしい、正直ちょっと痛い。
「あ、うん……そうだね……」
「それならそうと早く言ってくれればよかったのにさあ。あ、でも連絡先知らないか。えー、LINE教えて」
結局同じ結論に至った。なんならナンパされるよりもスムーズに連絡先を交換することになった。
先に私のアカウントを手に入れた彼方は「ふんふん、亜季ちゃん、プロフィール画像設定しないの? 俺が写真撮ってあげようか?」なんて相変わらず不躾だ。
「いいの、そのままで。はい、彼方の連絡先ちょうだい」
「ん、いまスタンプ送った」
ポンッと通知がきて、メッセージを開けば、友達追加をするかどうか尋ねられる。トーク画面には柴犬がお腹を見せて寝転ぶスタンプがあった。なんだか彼方に似ている。
――なんて呑気に考えていたけれど、友達追加ボタンを押そうとして、その名前に手を止めてしまった。
「つか、亜季ちゃんがいるなら、わざわざ弟に賄賂渡す必要なんてなかったよなあ。アイツ、絶対来るなとか言って招待券渋りやがって」
「……弟」
「ああ、うん。亜季ちゃんも会ったことあるだろ、ほら最初にその話したし。あの頃はこーんな小さかったんだけど、いまは背が伸びて、タケノコかって。あ、確か学年同じだ、亜季ちゃんも二年だよな?」
友達追加ボタンの上に表示されている名前は「桐椰彼方」。弟が花咲高校、二年生。
「……えっ」
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