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「なんだコイツ……」
「やべーヤツ出てきたな」
ヒソヒソと話すナンパ組に、このときばかりは私も同意した。方向性が違うだけで間違いなくヤベーヤツだ。
しかし、ナンパ組の一人がはっと何かに気付いたような顔になる。その顔は段々と青ざめ「おい……」と残る二人に耳打ちした。
「コイツ……、もしかして東高のキリヤじゃね……?」
……キリヤ? ナンパ組よりも私のほうが先に反応してしまった。ただ、一度その名を聞けば、ナンパ組からはすぐさま血の気が引いた。
「マジ? なんでこんなとこにいんだよ!」
「ほら、弟がいるって噂あっただろ! だからキリヤが卒業するまで花高には手出さないほうがいいって……」
弟……? 更に首を傾げている間に、三人はザッと一斉に有希恵から離れた。
「し、失礼しました!」
そして脱兎のごとく、逃げ出した……。一体何が起こったのか、野次馬はキツネに化かされたかのように呆然としている。なんなら当人の有希恵もだ。
「あーあ、いなくなった。せっかくナンパの極意を教えてやろうと思ったのに」
平然としているのは、そのヤバイ人だけだ。
「大丈夫? さっきのヤツらに何かされなかった? 一人を囲んでってのは良くないよな、怖かっただろ?」
「は……」
「やっぱり日本人は和服だよなぁ。すっげー似合ってる、可愛いよ。どこでやってんの? 案内してくんない?」
そして流れるようにごく自然に口説いてる。
「……私、教室には戻れない、んで」
「なにそれ? 集客ノルマ?」
「……そんな感じ、で。これ、チラシに地図、あるんで……」
「マジかー、大変だな。こんな可愛い格好して文化祭楽しめないなんて損してるよな。もし時間空いたら連絡してよ」
突然結末がガラリと変わってしまって、半ば呆れた目でその光景を見続けた。有希恵も一難去ってまた一難……。とはいえ、幾分良識的そうだから、私にできることはもうないだろう。



