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「だったら見てんじゃねーよ」
「…………」
ただ、やっぱり、なにも見てませんと見逃すことはできなかった。こんな感情が芽生えてしまったのは、生徒会役員に虐められたからかもしれないけど、相手が無名役員だと思うと無視できない。
「もしかしてお前も無名役員? だとしてもさあ、こっちよりレベル低いんだなあ」
「お前、そういうこというなよ、カワイソー」
ケタケタなんて笑い声を無視して、そっと首を傾ける。そこにいるのは、和服姿の──。
「……有希恵」
ぽつりとその名前を呟いた瞬間、サーッと、波が引くより早く自分の中の良心が冷めていくのを感じた。有希恵はやっぱり、私を見向きもしなかった。
「……なんだ」
その声は自分のものなのに、他人のものかと思うほど低かったし感情もなかった。ザマァミロ、なんて思う気持ちがどこか──心の中心にあった。
いい子になんて、なれなかった。私に平然と水をかけた人相手に、「それでも他校の男子に乱暴されるのはちょっと」なんて思うことすらできなかった。
ああ、私には関係のないことだったや──。そんな風に思って踵を返そうとしたとき、私ではない影が、その男子の間に割り込んだ。
「おにーさん達、ヘッタクソなナンパしてんなあ」
その場にそぐわない、明るい声だった。しかも、お祭り騒ぎの中で何かを知らせる放送のように、どこかみんなの耳を惹きつける魅力のようなものがあった。私だって思わずその声に振り向いてしまったくらいだ。さっきまで偉そうな顔をしてナンパをしていた三人は、思わぬ敵の登場に当惑している。
「は? なんだよアンタ……」
「とりあえず笑顔に品がない。その時点でアウト。でもってさっきから聞いてれば、何一つ相手のことを褒めない」その人は三人の反応ガン無視で「普通さあ、こういう場所なら、相手が気合をいれた部分のひとつやふたつ、あるわけだろ? 例えばこの子ならこの髪飾り。髪の色に合わせて赤色で合わせてきたわけじゃん。なんでそれを褒めない?」
……酷く、その場に沿わないふざけた説教が始まった。なんならその人は両手を広げ、まるでご高説でも披露しているかのようだ。



