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とはいえ、廊下がうるさいので同じことだ。父兄にまざって座り、足をぷらぷらと揺らして時間を潰していると、不意に祭りの喧騒を遮って、小さな悲鳴が聞こえた。
周りの人も少し反応したので、気のせいではなさそうだ。そっと廊下を覗くと、看板を持った誰かが男子生徒三人に囲まれていた。
「だってコイツ無名役員だぜ?」
下卑た笑い交じりの声だった。他校生でも生徒会の役員名知ってるんだ。
「何? 無名役員って?」
「お前知らねーの? 花高でイッチバン階級下のヤツなんだよ」
「えー、それビンボーってことだろ? お嬢サマ狙いに来たのにさぁ」
「そりゃ本命は世間知らずのお嬢サマだけどさ、一番手に入りやすいのもいいじゃん」
なるほど、逆玉の輿ってヤツだな。少し前の桐椰くんカツアゲ事件もあったし、もしかしたら花高生のカツアゲなんて日常茶飯事なのかもしれない。ただ、多分話しぶりからして彼らの目的は別のところにある。
「無名役員ってさ。生徒会の言うことなんでも聞くんだって?」
「なにそれマジ?」
「友達が言ってたんだよ。ソイツ生徒会で二番目に偉い指名役員ってヤツでさぁ、マジで無名役員は奴隷なんだって」
「パシリでもさせてんの?」
「そういう半端なヤツじゃなくてさぁ」
ヒソヒソと、少し話声が小さくなる。次いで「マッジ?」と一際大きな楽しそうな声が響いた。大体予想はつく話だ。
「だからこの子もさぁ──」
生き生きと話していた男子が、私を見て言葉を切った。そこで自分が顔をしかめてしまっていたことに気が付く。
「……なんか用?」
「……いえ、別に」
いくら私が御三家の下僕とはいえ、ここで男子を追い払うことなんてできない。大体、花高生以外に“御三家”の通り名が通用するとは思えないし、私が出て行っても御三家にとっての面倒ごとが増えるだけだ。もしかしたら騒ぎにすると松隆くんに「余計な手間をかけさせるな」なんて怒られてしまうかもしれない。



