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「あーあ、松隆くんが良かったなー、カップルごっこの相手」
「なんで?」
「だーって、松隆くんだったら絶対好きになりっこないもん」
そして、普通の男友達でも憤慨するところを、松隆くんは何とも思わないと分かってる。
「松隆くんはいつも飄々としてて嘘と本当の見分けがつかないような人だし、自分のことあんまり教えないから興味湧くきっかけもないし、全然私に踏み込んでこないし。一緒にいてとっても楽だと思うんだよね」
いつだって未練なく離れることができて、すぐに記憶の彼方に葬られて、いつか思い出そうとしてもどんな人なのか分からなくなってしまう。松隆くんはきっとそんな人だ。そんなことを言えば、松隆くんは「くっ、」と笑いを堪えるようにそっぽを向いた。松隆くんが声を出すほど──どころか堪えようとするほど笑うのなんて珍しい。そんなに変なこと言ったかな、と胡乱な目を向けるけど、松隆くんはまだくすくす笑っている。
「どうしたの松隆くん。笑いきのこでも食べちゃったの」
「いや……珍しく桜坂が間抜けだなと思ってさ」
「珍しく? 間抜け?」
私が間抜けなのはそんなに珍しいことではないと思うし……、そもそもそんなに間抜けなことを私はしたのだろうか。
「なに、どういう意味?」
「だって桜坂、それはさ、遼を好きになりそうって告白してんのと一緒でしょ」
──思わず息を呑む。論理的に正しい指摘に、心臓が凍った気がした。
「好きになるなとは言わないけど、御三家の中でカップル作るのはやめてね? 俺達も面倒だし。もし理性でコントロールできないなら好きにならないでね」
「……決めつけないでよ。別に好きになんかならないよ」
迷惑だから好きになるなと告げる松隆くんの目は本気だけれど、どうせ好きにならないだろうけれどという留保は透けて見える。食えない人だ。私を揶揄っているだけらしい。
「本当?」
「だって私好きな人いるもん」



