文化祭が始まる時間になると、桐椰くんはクラスの手伝いに駆り出されてしまった。お陰でやることもなく、ぷらぷらと私は校内を歩き回る羽目になる。土曜日なので、花高の生徒だけではなく、制服を着た他校生から大学生っぽい人まで、校内は普段見かけない人で埋め着くされてしまった。
「……なんか知らない場所みたいでやだなあ」
こうなると、私が通っている学校の文化祭なのか、私も外部から遊びに来ているに過ぎない他校生なのか分からなくなってしまう。
そんな中、文化祭の騒ぎとは違う謎の歓声が聞こえて足を止めた。人混みを掻き分けるようにして様子をうかがえば、涙目でメイド姿の女の子が拝むように松隆くんを見上げ、松隆くんが「全然、無事でなによりです」なんて嘘くさいセリフを吐いているのが聞こえる。
「ありがとうございます」女の子は泣きじゃくりながら「準備してるときからずっと怖くて……そしたらやっぱり荒らしに来るし……」
「今のでもう来なくなるんじゃないですかね。来たら僕達の名前でも出せばいいですし、じゃ、僕はこれで」
うわー、本当に御三家の株売ってるんだ……。心にもないこと言って、しかも俺様王様みたいな顔してるくせに僕なんて一人称遣って、女たらしめ。なんて白い目で見ていたけれど、心にもないことは言ってないことに気付いた。絶妙に一般生徒の心情に寄り添う素振りはみせていない。ある意味誠実かもしれない。
その野次馬の中から出てきた松隆くんは、私に気付くと「ああ、お疲れ」なんて爽やかな笑みを浮かべる。今日も相変わらず、すれ違う他校生が思わず振り向くほどの美形っぷりだ。
「……おはよ。御三家の株は順調に上がってますか?」
「ああ、お陰様でね」
そう言いながら右手を背後に隠したのを目敏く見てしまった。生徒会役員を殴ったか胸倉を掴んだかくらいはやってそうだな、この似非王子様……。
「で、桜坂は。なにしてるの?」
「……まあ、ぷらぷらと文化祭を楽しもうかと」
「のわりには、つまらなさそうだね」ふ、と笑いながら「遼がいないと暇なんだろ?」
「暇……かなあ」
確かに、桐椰くんがいないと遊ぶ相手がいない。文化祭に盛り上がって遊ぶなんて、自分のがらじゃないことは分かっていた。
「まあ、暇だねえ。松隆くんが構ってくれてもいいんだよ?」
「俺に軽口叩くなんて珍しいじゃん、桜坂」
口を噤めば、ニッと松隆くんは笑う。
「何かあった?」
「……なにもないよ」
「そう。言いたくないならつっこまないでおくけど」
桜坂の言うフェアに信頼は含まれないからね、とやや皮肉げに言われた。一般的には傷つくほど冷たい言葉なのかもしれないけれど、私は肩を竦めるくらいだし松隆くんも私が気にしないことを知っている。



