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「松隆くんのあれが演技だなんて分かってるよ。でもそれと私と何か関係あるっけ?」
「……お前は本当に、嘘の塊みたいな女だな」
──一瞬、呼吸が止まった。
「私嘘ついたことなんてないじゃーん」
「そうだな。多分お前の言葉から嘘は聞いたことない。でもお前って存在が嘘なんだから言葉も嘘みたいなもんだろ」
……なにそれ。
「……本当は存在してないはずだとか、そういうこと?」
「違う。そうじゃない。そういうのじゃなくて、だな……」
選ぶ言葉がまずかった、と桐椰くんは疲弊しきった表情で軽く額を押さえた。そんなに疲れてるっていうなら、見逃してあげよう。
「……お前のテンションは、嘘くさい」
「ほう。明るく元気なのは嘘くさいと」
「……なんでそうやって茶化すんだ? 俺、言ったよな? 真面目に話してんだ、って」
「なんでシリアスモードに入りたがるの? 楽しい楽しい文化祭だよ? もっと気楽に行こうよ」
「……あのな、」
「ねぇ桐椰くん。私と桐椰くんだって偽物カップルなんだから嘘だよ?」
顔を上げた桐椰くんの、その美形を司るような鼻に指先をつきつけた。
「仮面なんて、見えないだけで誰だって被ってる代物だよ? それを無理やり剥がしたって仕方ないじゃん」
「……演技は認めるんだな」
「うーん、まぁ認めようかな」
「痛っ」
その鼻先をピンッと弾いた。桐椰くんは返す言葉もないくらい面食らっている。
「なにしやがる、」
「でも演技でもいいでしょ? 私と遼くんの関係は利害関係なんだからさ」
べっ、とついでに舌を出してみせた。桐椰くんの表情が段々変わっていく。
「……お前、」
「やだなー、怒らないでよ遼くん。折角皆々様に賛美されるイケメンが台無しだよ?」
「…………」
「大丈夫だよ。仮面の下の私を知ったところで得なんてないし、仮面被ったままの私でも御三家に損はないよ?」
ね、と念押しした。私への嫌悪と怒気と不信を最高潮まで募らせた桐椰くんの瞳は、まるでグラデーションのように感情を失った。
「……あ、そ」
「休憩はもういいの?」
「先に競技終わらせてこれ外して帰る」
問答無用で立ち上がって、私の手を握るよりは掴んで歩き出す。休憩になったのかなってないのか、おそらくなってないほど短い休憩だった。ただ分かるのは、どうやら桐椰くんは、少しは私を知ろうとしてくれたってことだ。そして私は、あまりにわざとらしく、あまりに明確に、あまりに不誠実に、線を引いた。私の中に入ってこないでと拒絶した。それなのに、何度も食い下がるなんて。なんて優しいんだろう、桐椰くんは。
その背中に思わず笑いかけたくなったことに気付いて慌てて表情を取り繕った。
『フェチを答えてください!』
──きっと、余裕がないのは、こんなコンテストをしているせいだ。諦めの悪い自分を諦めたくなくて、桐椰くんには気付かれないよう、息を吐いた。



