「はーい、BCC参加者ですよね。こちらに署名お願いします」
繋いだ手を掲げて見せるカップル。私と桐椰くんは野次馬の相手をまともにする気にもなれないし、立ってても疲れるだけ、と勝手に椅子に座り込む。もちろん背中合わせだ。水泳部のカップルを後ろから見てれば、恥ずかしそうな嬉しそうな女の子が三〇センチは差がありそうな彼氏を見上げて笑っている。彼氏は照れくさそうにそれをあしらって署名する。あぁ、あれが本物のカップルか。
「ねぇ遼くん」
「なんだよ」
「私達ってやっぱり偽物なんだねぇ」
観客が集まってきた、その喧騒に紛れてコソコソと話す。背中合わせだから、椅子に凭れるだけで小声でも会話が通じるなんて、便利といえば便利だ。
「分かってただろそんなこと」
「分かってた。別に私も遼くんと付き合いたいなんて思わないしねー」
「俺も全く思ってないし思われたくもねぇけど俺がフラれてるみたいだからやめろ」
自由なほうの左手を使って器用に頬杖をつく。我ながら横着な態度だ。
「……お前さぁ」
「何?」
「……彼氏でもいんの?」
「はい?」
聞き間違いかと思った。思い切り振り向けばガンッと後頭部がぶつかる。
「痛っ……」
「アホかお前は! 静かに振り向け!」
「遼くんが変なこと訊くからじゃん! 今までそんなこと訊かなかったくせに!」
「過去の恋人の人数聞かれたら困ると思ったんだよ!」
絶対嘘だ、と直感した。それにしては随分と訊き方に違和感があった。だって「彼氏いるのか」って現在形だ。その目を見て尋問したいけど、背中合わせだとそうもいかない。とりあえず納得したことにしておいてあげよう。
「……ふうん」
「……で?」
「……今はいません」
「だから何人だって訊いてんだろ」
「一人です」
「へぇ」
「遼くんも過去に付き合ってフラれたのは蝶乃さんだけでよろしいですか?」
「だからいちいちムカつくんだよテメェは!」
「ふふーん。元カレの人数訊くなんてデリカシーないことする遼くんが悪いのです」
軽く頭を振れば後頭部に打撃を食らった桐椰くんが「イテッ」と反射的に声を発した。ザマーミロ。
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