「遼、桜坂、準備はいいか?」


 いつもより幾分低いトーンで松隆くんが告げた。


「資料通りにやれば余裕で高得点を狙える種目しかない。要は三日目だけど一票でも差がついた時のために点数を稼いでおくにこしたことはない」

「ああは言っても生徒会がどこまで誠実に競技に臨むかは不明だしな」


 月影くんが補足すれば松隆くんが「その通り」と頷く。


「特に鹿島は俺もよく知らない。蝶乃は知っての通りプライドが高くて馬鹿で自惚れ屋の遼の元カノだが」

「おい最後の説明要らねぇだろ!」

「基本的に沸点が低いから扱いやすい女だけど、残念ながらあの顔のお陰で下僕が多い。生徒会の指示に従って動いてるヤツじゃなくても、蝶乃の敵って意味で襲ってくる生徒もいるかもしれないから要注意」

「スルーかよ!」

「企画委員は公正を謳ってはいるけど、生徒は基本的に生徒会の味方なのに果たしてどこまで本当か。味方はいないと思ってやってくれ」


 散々無視し続けた桐椰くんをまだ無視して、松隆くんは私に向き直った。


「桜坂、お前の頭は見込んである。覚えた遼の情報も、その地頭も駆使して絶対に勝て」

「はーい。褒められると伸びるタイプだからね、私!」


 相変わらずうぜー性格、と桐椰くんは隣で溜息をついた。まだ両手がフリーだから今のうちにあっかんべーで答える。

 さて、と松隆くんが時計を見た。時刻は午前十時四〇分。


「コンテストエントリー者はそろそろ集合の時間だ。俺は鹿島と蝶乃の見張り、駿哉は生徒会役員の見張りをしてる……つまり競技中に出くわす可能性もある。何か問題があれば声をかけてくれ」

「あぁ、分かった」

「よろしくね遼くん、仲良しこよしきゃっきゃうふふのカップル誕生だよ」

「おい問題がある。コイツがうざくて競技中にぶん殴らない自信がない」

「酷い!」

「遼、耐えろ。三日間の辛抱だ。たとえどんなに桜坂の言動がうざくて殺意を覚えたとしても笑顔で頬をつねってバカップルのフリをしろ」

「こうか?」

「すいませんとてもじゃないですがじゃれる強さじゃないです」


 月影くんの助言を傍目には忠実に表現してるように見えるけれど、とてもじゃないけど指の強さがバカップルじゃない。全力で恨みが(こも)ってる。

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