顔を上げて最初に抱いた感想は「絵に描いたような優等生」だ。黒縁眼鏡と、こざっぱりと整えられたこれまた黒い髪。ただ、月影くんのような気真面目さを感じさせないのは、制服の絶妙な崩し方にあるのだろう。
少し高い鼻が印象的で、それのお陰で垢抜けた雰囲気がある。それでも (最近御三家を見慣れてしまったからか)全体的には無難な好青年という感じの人だった。
が、その徽章を見れば警戒せざるを得ない。生徒会役員だ。
ただ、それにしては妙に優しい……。さすがに私の顔を知らない生徒会役員なんていないと思うけど……、なんて内心首を傾げていると、眼鏡の奥にある二重の目が煌めいた。
「もしかして、桜坂かな?」
「え? はい、桜坂ですけど……」
次いで、彼は初対面の緊張を解くように笑った。
「ああ、そうか、噂には聞いてたけど、会うのは初めてだな」
「あの……?」
「ごめん、ごめん。初めまして、生徒会長の鹿島だ」
そして、私の全身に緊張が走った。この人が、あの生徒会役員を束ねる生徒会長。
息を呑んだのが伝わったせいかは知らないけれど、鹿島くんは明るい雰囲気を崩さない。
「なんだ、桜坂。俺のことが怖いか?」
「え……」
「別に何もしないよ。松隆達に何吹き込まれてるかは知らないけど、そんな地雷みたいな人間じゃないって、俺は」
――面食らった。その表情の明るさも、雰囲気の優しさも、裏表を感じさせない声音も、何もかもが想定外だ。札束で頬を引っ叩いてると言っても過言ではない生徒会の頭であるはずなのに、まるで普通の高校に通う無害な優等生だ。
「意外そうな顔をするんだな。生徒会長がこんな顔をしてるなんて予想外だったか?」
「……いや、そういうわけじゃないですけど……」
こんな人が生徒会長……。顔がどうとかいうのは冗談のつもりだろうけれど、少なくともこんな雰囲気の人であるのは予想外だった。なにせ、他の生徒会役員のように、一般生徒である私を蔑んだり、見下したりする態度ではない。むしろ、どんな人相手でも目線を合わせて話を聞いてくれそうな、そんな空気さえまとっていた。
「そんなに緊張しなくても。生徒会長って言ったって同じ二年生だしな」
「……ベストカップルコンテストを用意したのは、鹿島くんですよね?」
「敬語もいいよ。お互いに丁度いい舞台かなと思って指定しただけさ。とはいえ、君達が不利であることに変わりはないけどね」
それは暗に八百長をほのめかすようなセリフだったけれど「カップルコンテストなんだから。カップルでない君達が不利なのは当然じゃないか」と付け加えられた。
「ああでも、君達がカップルじゃないとバラすつもりはないから、その点は安心していい」
「……そうですか。じゃあ――」
あんまり敵の大将と話し込むべきじゃない、そう判断したけれど、鹿島くんは「ところで」と話を続けた。
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