第一幕、御三家の桜姫


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「それが……最近生徒会役員から苦情が入ってな……松隆達が無断で生徒会室に出入りしてると……」


 あ、それ私のことだ。仕切ってるのは松隆くんなのに忍び込んでるのが私なせいで犯人は私。とても理不尽だ。


「一応生徒会室は生徒会役員以外の無断立ち入りを禁止されてる場所だろう? それを守ってほしいんだが……」

「それは金山先生が直接言っちゃ駄目なんですか?」

「松隆達にはあんまり強く言えない立場でね……」


 ははは、と金山先生は少し情けなさそうに笑った。学校なんて、先生が無条件に生徒を指導していい場所であるはずなのに、強く言えない立場だなんて妙な話だ。


「でも、そもそもなんで生徒会室には役員以外の立ち入りが禁止されてるんですか? 一般生徒が入っても問題ないと思うんですけど……」

「あー……ここだけの話なんだが、去年、生徒会室でちょっと問題が起こったんだ」


 金山先生は職員室内の喧騒に埋もれさせるように、その声のトーンを更に落とした。透冶くんの事件、だろうか。ただ、生徒会室で起こったというのは初耳だ……しかもこんなにあっさりと転校生にバラしていいものか。当時の生徒にすら隠されていると聞いたのに。


「まあその問題のせいで……一般生徒は生徒会室に入れないようになったんだ」

「え、もっと詳しいこと教えてくれないんですか?」

「いやいや、ちょっとあんまり話しても先生が怒られるから……それから、あんまり生徒会に反抗しないようにとも話しておいてくれるか? やっぱり寄付金を貰ってる生徒に不自由させるわけにはいかないし……」


 食い下がられても困ると思ったのか、金山先生は慌てたように早口で喋って「じゃあ第二考査も頑張れよ」と残して席に戻ってしまった。先生の台詞は、裏を返せば「寄付金を払わない生徒は冷遇されても仕方ない」ということだろう――有希恵のように。ぺこぺこと頭を下げながら生徒会役員の言うことをきく金山先生の様子が容易に目に浮かんだ。せっかく、減免申請書類受理というありがたい話を聞いたのに、気分はちょっとばかり消沈(しょうちん)してしまった。そりゃ御三家でなくても生徒会に逆らいたくなるよね。


「失礼しました――っと」


 軽く頭を下げて職員室入口で回れ右をすれば、私と入れ違いになろうとしていた男子生徒とぶつかりかけた。


「すみません」

「ああ、いや。こちらこそごめんなさい」


 慌てて謝れば、丁寧な低い声が返って来た。

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