いつもより低い声で香月さんはもう一度、男に伝えた。 「お帰り願えますか」 「……ふんっ」 男は掴まれていた腕を強引に振り払って、背中を向けた。 その時、振り返る男の体が勢い良かったのかカウンターの端にぶつかった途端、わたしの後ろから何かが、転がる音がした。 「ん?」 なんだろうと、肩越しに探してみれば―― カウンターから落ちる寸前の、あのスノードームだった。