わたしは座る前に、常連さんにたずねた。 「香月さんはどちらに?」 「あーちょっと前に焦った様子で奥に入ってったよ。なぁ?」 「ええ、何かあったのかしら」 どうしたんだろ――カウンターの奥に顔を向ければ、香月さんが小走りに出てきた。 やはり常連さんの話の通り、焦りが見える。 香月さんは、わたしを見るなりこちらに走ってきた。 「市川さんっ、すいません。少し頼みたいことが……」 「頼みたいこと?」