何も解決していなかった。ただ、生者と死者の立場がくるり入れ替わって、あたしは詠の隣にいることが当たり前になっただけ。もう、どちらが好きかなんてわからないし、どちらかといえば詠に傾いている。

 詠は安心したように笑っている。前まではあんなに刺々しかった言葉尻も、今では穏やかになっていた。

 当たり前か。だって、詠のライバルはとっくに死んでいる。あたしの性的対象になりうる遺伝子を持つ存在が、この世に自分だけだという安心感をやさしく抱いているのかもしれない。


「詠は、これでいいの?」


 左腕でブランケットを手繰り寄せる。簡単な処理を終えた詠は、冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出しながら声だけをこちらに向ける。


「何のこと?」

「あたし、昔みたいに純粋な気持ちで詠のこと、好きになれないかもしれないよ。どこかで零の影がちらついてしまうから」

「それでも、いいから」

「……変なの」


 詠はペットボトルをテーブルの上に置く。そのまま、彼は鍵のかかった戸棚を開錠して、中から睡眠薬を2錠取り出す。

 不幸はもう一つ影を灯した。

 詠には話していないが、いま詠が手に持つ睡眠薬は、心中に失敗したあの日の放課後に、零から口移しされたものと同じものだ。オーバードーズの一件をきっかけに、あたしに処方される薬が変わり、奇しくも零が服用していたものと同じになったのだ。

 何も知らない詠は、リスミーを自分の口に入れ、噛み砕く。