生殖器を重ね合わせるだけの簡単な行為に、ただの愛情だけを追求できるほど、あたしは倫理観を捨てているわけじゃなかった。

 それはたぶん詠も一緒で、あたしたちは終始、何かに怯えながら、それでも遺伝子に引き寄せられた本能には抗えず、お互いを求めた。

 あたしの上に跨る詠が、長いまつ毛を伏せながら呟く。


「右腕、平気か」


 うまく動かすことのできない右腕に、すこしだけ違和感があった。

 だがあたしは首を縦に振って、だいじょうぶ、と微かな声で呟いた。そのまま、動く方の左腕で詠の首筋を引き寄せる。


「……零は、ひどいよね。動かせないのが左腕だったらよかったのに」

「どうして?」

「感覚があるから、零に握られた手の冷たさをまだ覚えてるの」


 図書準備室で、零の右手と、あたしの左手は固く結ばれていた。左手の先で、零が死んでいた。

 痺れて感覚がなくなったのが左腕ならよかった。そうしたらきっと、時を経るごとに結ばれた手の感触は記憶から薄れて、楽になれたかもしれない。

 これは、零が最後に残した呪いだ。願いに反して右腕に障害が残ると、残された健康な左腕はより感覚が研ぎ澄まされて、鋭敏になった。あたしは、今でもずっと記憶に殴られている。