幻のファントム・ペイン。他の痛みで上書きされれば、幻肢痛は薄れて消えていった。

 他の痛みとは、もっと現実的で、具体性のある痛みだ。右腕の違和感を抱えながら、数ヶ月前のことを思い出す。

 睡眠薬のオーバードーズを図ったあの一件で、あたしの身体には軽い身体障害が残った。右腕に痺れが残り、すこしだけ、生活が不便になった。

 だけど詠は、じょうずに動かせない右腕の代わりになってくれた。彼は、あたしを助けるという名目で、罪悪感なくあたしが詠の隣にいられる理由を作ってくれた。あたしは、それに甘えた。

 薄暗い部屋で、息を飲み込んだ。この空間には、衣服をくつろげた今在詠と、それを受け入れようとするあたしがいる。


「……あたし、最低だね」


 あたしは元々、詠が好きだった。だから零を利用して、詠に近づこうとした。そのうちあたしは零に鞍替えをした。

 そうしたら、零のことが好きになった。彼と、本気で心中しようと思ってた。なのに心中には失敗して、そして一人でも死に損ねて、結局、あたしはまたも鞍替えをしようとしている。詠はそんなあたしを、許そうとしている。

 何度も何度も双子の立場が入れ替わる。何度も何度もあたしは最低を積み重ねる。そしてあたしは、何度も何度もふたりを傷つけた。

 間接照明だけが淡く詠の顔を照らしていた。彼はあたしの頬を両手で包み込む。


「最低はぜんぶおれに押し付けていいから」


 目を瞑って、首を横に振った。

 せめて最低は、あたしだけが抱いておくべきだ。詠は、なにも悪くないのだから。