「おまえさ、辛かったでしょ」


 包帯越しのキスは無味無臭だった。

 睡はあからさまに眉間にしわをよせた。だが彼女も今はおれに噛み付く体力などないのだろう。

 ずっとこうして眠っていたんだ。彼女は大声でおれを怒鳴りつけることも、泣いておれを呪う体力すらない。


「おまえの気持ち、よくわかったよ。心から愛する人に置いていかれる悲しみも、眠れぬ夜から逃げ出すために薬を飲んだことも、噛み砕いた睡眠薬の安心感も」

「……っ!」


 睡は何かを言おうとして、目を大きく開く。だが彼女の声は掠れて空を切って、そのあとすぐに咳き込み始めた。

 おまえに何がわかる、とでも言いたそうな目つきだ。だけどね、もう、だめなんだ。ここままでは、おれも、おまえも、壊れてしまうから。

 おそらく彼女は、急に大声を出そうとしたけれど、身体がそれについて来なかったのだろう。咳き込む彼女を宥めて、落ち着かせる。


「だから、頼むよ。生産性のない、死人を追いかけまわす連鎖なんて、終わりにしよう」


 零の代わりに睡眠薬を噛み砕いてあげるし、生々しい不幸を一緒に歩いていく。おれはそういう覚悟の上で、ここに来た。


「零は、おまえを殺せなかった。それだけのことだろ。だから、おまえを殺す権利はおれだけのもの。おれが与える小さい不幸を抱いて生きて。それが致死量に達したら、ふたりで死のう」


 睡は目に涙を溜めながら喉奥で細く呼吸をしていた。

 拒否権なんて、与えるわけない。だからはやく、おれの隣で不幸になってよ。