睡のネームプレートが掲げられた病室の前で、息を飲み込んだ。

 一度安らかな顔で眠る睡を見てしまっているからだろうか。正気の宿った睡に何を言われるだろうかと想像するだけで、恐ろしくてたまらなくなる。

 睡の家から持ってきた荷物を持ち直す。

 もうおれたちは、引き返せないところまで来ている。零はどうしたって生き返らないし、おれが無理やり睡を襲った事実だって、消えてなくならない。


「……睡」


 そろり足音を立てずに入った病室で、睡がいるベッドの脇に立つ。

 睡はただぼうっと、天井を見上げていた。その視線が横にずれると、ふたつのビー玉に囚われる。零とおなじ、じっとりと湿った、生々しい目。

 睡の左腕には点滴の針が刺されてある。身体がひどく重そうだ。彼女が唇を開く。


「詠、どうしよ、また、だめだった、んだね」

「……」

「あたし、れ、いに、見捨てられた、のかも」


 思ったよりも落ち着いていたけれど、彼女の声は弱々しかった。今は、声を出すことも苦しいのだろう。

 彼女は生きている。だが、彼女の生を感じると、安心すると同時に、不安になる。彼女が現世に生を留めている限り、彼女はいつだって死に急ごうとする。

 言いたいことはたくさんあった。だけどおれは、点滴が繋がった彼女の左腕をとり、包帯越しにキスをした。

 零の呪いが解けないのなら、おれがもっと強力な呪いをかけてあげる。それくらい、おれはあなたに執着してるんだよ。