あたしはあまり本を読まない。だけどあたしは本好きのふりをして、今在零に近づいた。

 適当に手に取った太宰治はおもしろいと思った。だけどそれ以外の小説にはあまり興味が湧かなかった。零が、あたしの本意に気づいているかどうかはわからない。


「また、あの人の話?」


 こくり頷くと、零は読んでいた文庫本に栞紐をひいてこちらを見る。

 図書室内の読書テーブルに備え付けられた座り心地の良い椅子をカウンター前に引っ張ってきて、それに座りながらカウンター越しに零とひそひそ話をするのが、この頃のあたしの常だった。


「うん。今日ね、ちょっとだけ話せたの」

「そうなんだ?」

「落としてたシャーペンを拾ってあげただけなんだけどね」


 好きな相手が零の双子の弟、今在詠であるとは言わずに、あたしは零に恋愛相談をしていた。

 放課後の図書室は人がまったく来ない。なのに火曜日になれば、零は律儀にカウンターの奥に居てくれる。

 わざわざ読みかけの文庫本を閉じてまで話を聞いてくれる零は、すごくやさしい人なんだなって思った。

 だけどふとしたときに見える骨ばった手先とか、首筋に落ちる影がどうしても今在詠に似ていた。だから、零と一緒にいるだけで、決して短くはないスカートの奥で、ずくりと子宮の欲望がみだらに鳴いていた。