睡が起こした突然のパニックにおれも狼狽えていたから、自分でも知らないうちに、彼女を押さえ込んでいた腕がすこし強くなってしまった。

 気がついたら、彼女が自らの右手首を押さえて、痛い、痛いと泣いていた。おれは自分の力が強すぎたことを理解し、ごめんと謝った。


「なんで、詠はこうやって、いつもあたしの邪魔ばかりするの……?」

「……」

「あたしが、詠のこと好きだったって認めれば、それで満足なの?」


 ほんとうのことが知りたいだけだった。ただ、彼女の湿った瞳の奥に隠された気持ちがわかれば、なぜか救われる気がしていた。


「……教えろよ。おれだって、知りたい」

「知ってどうするの。どうせ零は帰ってこないのに」

「受け入れて生きていくため、だろ」

「ずいぶんと身勝手なんだね。あたしの死にたい気持ちは無視するの?」


 身勝手なのはおまえの方だ。あのとき、「死ぬのがこわい」なんて言わなければ、おまえは零といっしょに死ねたはず、なんだろう?

 自分で死のチャンスを手放したくせに、いまさら零に執着するな。おれだけを見ろ。おれはおまえの死にたい気持ちを飼い殺して、零がおまえにしたよりも、もっと卑劣に生きさせてやれるのに。

 ああ、どうしよう。優しくできない。彼女に優しくしたいのに、彼女の願いを叶えることは彼女を殺すことと同義で、それがどうしても耐えられないから、致死量とは程遠い傷を負わせ続けてしまう。ほんとうは、あまくしたいのに。