それに、何も知らないのは睡の方だ。

 おまえは、おれの気持ちにはこれっぽっちも気づいていないし、零が睡を現世に残して消えた理由だって知らないまま。

 なんだか無性にむかついて、彼女が抱きしめるブランケットを剥いで奪い取った。その匂いが零のものだと言う睡のせいだ。


「おまえと零が図書準備室で倒れてたとき、おまえの制服のポケットに、零からの手紙が入ってた」

「……なに、それ」


 睡は意味がわからないという顔をする。彼女の顔を覆い隠せるブランケットはおれの手の中。はやく、絶望する顔をおれに見せてくれ。

 手紙、という言葉を反芻して、睡の顔つきがみるみるうちに曇っていく。


「おまえ、おれのことが好きだったの?」

「……ちがう」

「他でもない零が、そう言ってたのに?」

「違う!!」


 睡の顔がひどく歪んで、次の瞬間、横になっていた彼女がその場に起き上がる。彼女はそのまま、おれを思い切り突き飛ばした。

 まさかこんなふうに突き飛ばされるとは思っていなくて、油断していたおれは思わず後ろの床に倒れ込んだ。

 すると睡はベッドを降りて、ベランダの戸の鍵を開ける。


「おまえ、なにするつもり」

「飛び降りる」

「馬鹿、2階だから死ねるわけねえだろ!」


 鍵を開けて外に飛び出した睡に慌てて抱きつき、無理やり部屋の中に引き戻す。彼女は暴れながらおれを引き剥がそうと必死で、おれは出しうる限りの力を使って彼女の衝動を封じた。