アパートに着いたとき、彼女は多少酔っているようだったが、自分の足で歩ける程度にはアルコールが抜けていた。かわいげのない女だと思う。


「あ、くすり。あたしのくすり、おうちだ、ねむれないよ」

「前に睡が置いて行ったの、2錠なら残ってる」

「わー、さすがだね」


 さっきよりは酔いが抜けたとはいえ、シラフに比べれば幾分か気分がいいようで、彼女はぜんぜん面白くもないくせにけらけらと笑っている。

 彼女を部屋に押し込む。問答無用でベッドに転がすと、彼女はおれがいつも使っている肌馴染みのいいブランケットを抱きしめた。


「零のにおいがする」


 彼女は、口を開けばすぐ零の名前を呼ぶ。彼女はよく零の夢を見るらしいが、その夢の中におれはいるのだろうか。

 おれがなにも言わないことを良いことに、彼女はひとりで喋り続ける。


「どうしよ、泣きたくなってきた」

「さっきまで機嫌よさそうだったじゃん」

「零のにおいがするから」


 笑ってみたり、泣いてみたり。酒の入った彼女はやや情緒が不安定だ。


「どうしてあたしは、置いていかれたの」


 ……そんなの、知ってどうするわけ。

 教えたくねえよ。おまえが、狂気的なほどに、零に愛されていたなんて。

 むかつくから、彼女を睨みつけた。だけど彼女はおれのことを見ていなかった。ただ、おれの匂いが染みついたブランケットを抱いて泣いていた。

 どうしたって零は帰ってこないのに、彼女は生きているおれを傍に追いやって、今ここにいない男の影ばかりを追いかける。誰かおれを救ってくれ。