タクシーに彼女を転がし、おれも同じ車内に乗り込む。伝えた住所はもちろんおれのアパートのものだ。連れて帰るよ、おれは今機嫌がわるいから。


「ほら、飲んで」


 ここに来る前に買っておいた500mlボトルの水のキャップを外し、それを睡に押し付ける。睡は絶対に水をこぼすから、あらかじめ、ふたくち程度の水を捨てておいた。もったいないように思えるだろうが、彼女の口元の甘さを舐めてはいけない。

 彼女は黙ってそれを受け取り、ぐっと水を喉に流し込んだ。彼女はボトルをこちらに押し返しながら、不服そうな顔をする。


「醒めたくないの。詠の家に、おさけあるー?」

「ねえよ」


 彼女はいつもお酒の場で無理な飲み方をする。それなのにこうやって会話が成立してしまうのは、彼女が全然、酒に弱くないからだ。

 無理に飲めば、多少は意識を朦朧とさせることができるけれど、すこし時間をおけば酔いが醒めてくる。アルコールを介しても、彼女の意識はずっとこちら側にあるのだ。

 睡は現世から離れたがっているのに、彼女の不幸な体質がそれを阻む。酔って意識を混濁させたいはずなのに、それをするには莫大な努力を要する。

 うん、やっぱり彼女は生きづらそうだ。だけど、ずっと死にたいくせに、死に損ねておれの隣で不幸を積み重ねる彼女がちょっとだけ愛しくもある。