おれと零は趣味も嗜好もぜんぜん違くて、だからこそ相手を尊重できていたはずだった。

 だけどたったひとつ、重なってしまった。

 おれはこの頃にはもう、自分が夢見睡に惹かれていることを自覚していた。零の隣で色っぽい顔をして笑う彼女が、零じゃなくて自分の隣にいてくれれば、と何度も黒い妄想を繰り返した。

 たった一度、シャーペンを拾ってもらっただけの人だ。そんな人に執着する自分がおそろしい、と思う。だからこそ、彼女に対する恋慕が、遺伝的に、そして本能的に動機づけられているものだと自覚した。

 零のことはべつに嫌いじゃなかったはずだった。だけど、ずっと部屋で本を読む兄の趣味や、やわらかくしずかに笑うあの感じとか、物事の損得よりも相手の感情をきちんと優先してあげられる優しさとか、そんな雰囲気は何度見たって夢見睡とお似合いで、ひどく羨ましかった。

 夢見睡は、零にキスをするために背伸びをしたりするのだろうか。

 そんなことを考えるたび、黒い思考に支配されて、自分の性悪さに泣きたくなった。

 零に対しては口には出さずとも、心のどこかで、「死ねばいいのに」という呪詛が生まれた。そうしたら傷ついた夢見睡を思い切り口説いて、甘やかしてやれるのに。

 そして神様は、おれの黒い心にそっと口付けをした。


 ——零だけが消えた。