嫌な部分の遺伝子が似通ってしまった。言ってしまえばそれだけのことだ。
別に傷つく必要はないはずだった。だっておれは、以前付き合っていた陸上部のマネージャーの彼女とは別れてしまったけれど、新しく他校に恋人ができたばかりだったのだ。
だから、零と夢見睡が男女の関係にあるからといって、べつに自分にはなんの影響もないはずだった。
それなのに、なぜか兄に負けたような気分になって、ひどく不快だったのを覚えている。
「おまえ、夢見さんとなにがあったの」
図書室で接吻だなんて淫行をはたらいていた零が、いつも通りの時間に素知らぬ顔で帰宅するものだから、耐えられなくなったおれは思わず零の部屋を訪れていた。
零はベッドの上であぐらをかきながら文庫本を読んでいた。タイトルはどうせ見てもわからない。
「お、覗き魔の詠くんじゃん」
「うるせ。あんなとこでキスするのが悪いだろ」
「若気の至りってことで、ゆるしてよ。ていうか詠、睡のこと知ってたの?」
びみょうに言葉の使い方がおかしいような気がしたが、いつもの零の呼吸だ。
「なんとなく、覚えてただけ」
「ふうん、」
零はおれの顔を舐めるように見る。
おれは零よりもポーカーフェイスが苦手だから、ちょっとだけ困った。
おれがポーカーで負けるのは零が相手のときだけのはずだけど、それって裏をかえせば、零相手には隠し事ができない、ということでもある。


