夢見睡への意識が、遺伝子に組み込まれたプログラムの誤作動であることを知ったのは、あれから少しだけ季節がまわった高校2年生の春のことだった。

 サッカー部の練習が突然の雷雨で中止になり、部内でのミーティングを終えて帰る準備を整えたとき、ふと、今日が火曜日であることを思い出した。

 双子の兄である今在零は、火曜日の放課後はいつも図書室にいる。

 おれと零は、顔以外全然似ていないけれど、気まぐれに会話をするくらいに仲は良かった。全く一緒じゃないからこそ、ほどよく距離感を保って、互いに敬意を払えていたのだ。

 だからこそ、零に用はなくても、だる絡みをする目的で図書室に向かった。

 何の気なしに訪れて、扉のガラス越しから中を覗いたとき、だった。


「……っ!」


 レイ、と呼びかけた声を寸前のところで引っ込める。奥のカウンターにはたしかに目当ての人がいたが、それだけじゃなかった。


 ——零は、カウンター越しに夢見睡の頭を引き寄せ、彼女と唇を重ね合わせていた。


 その光景に思わず全身が硬直する。彼女の顔が見えなくても、彼女が夢見睡であることはわかった。だって、いつも目で追っていたから。

 向こうで甘ったるい空間を形作っていた零の目が開いた。

 零はおれを、ジトリと湿った、夢見睡によく似た視線で撫でた。そしてあいつは、夢見睡を抱きしめながら、こっそり人差し指を立て、「しずかに」とおれを制止する。

 なるほど、と思った。全然似ていないと称される二卵性双生児のおれたちが、唯一と言っていいほど似てしまった内面は、夢見睡を愛してしまったという事実だった。

 神様ってほんとうに趣味悪いな。