それなら私は歩ちゃんを好んでいる。一緒にいても心が揺さぶられることがない。しかしそれは恋や愛すると言う意味で揺さぶられることも無ければ、辛く悲しい気持ちにされることも無い。良い意味で心を揺さぶられ無いのだ。いつも付き合うときは嫌われたくなくて演技をし続けていたが、歩ちゃんの前ではそれが必要無く素でいられることの方が多かった。時々は演技もしたが、素でいられる時間が多く、それがとても楽だった。
「先生……今、何考えてる?先生の頭に浮かんだ人ってどんな人?」
そう言われて、自分が歩夢の事ばかり考えていたことに気づく。こんなことを言うなんて、中学生はもう立派な女性なんだな。私は涼花の頭を優しく撫でながら口角を上げた。
「泣く姿が可愛い人」
その日の夜、私は『ラビリンス』にやって来た。扉の前で開店前の準備をしていた徹子ママに声を掛けた。
「徹子ママ、私……歩ちゃんと話をしようと思ってる」
「あら、急にどうしたの?心境の変化でもあったの?」
「気づいたことがあって……」
「へぇー。それって歩夢くんを好ましく思ってるから?」
愛花が息を呑むと、徹子ママがまったくと言った様子で溜め息を付いた。


