だってどんなに思われても私はそれを返すことが出来ない。きっと歩ちゃんだって私から離れていく。それなら自分から離れた方がいい。初めはそう思い自分から歩ちゃんと離れることを覚悟した。しかし、歩ちゃんのあの涙が脳裏にこびりついて離れない。目を見開いたままこぼれ落ちる涙。ビー玉みたいに綺麗な黒い瞳から音も立てずに落ちる雫が地面に落ちるさまを見て後ろ髪を引かれた。それでも振り返ることをしなかったのは自分だ。あの時、振り返って歩ちゃんの手を取っていたらどうなっていたんだろうか?そんな事を考えて首を振る。自分から手放したくせに女々しいことを考えるな。私はそこに浮かぶ琥珀の月を眺めて溜め息を付いた。歩ちゃんもこの月を見ているのかな。
「先生!今日学校行ってきたよ!」
涼花ちゃんが嬉しそうに笑顔を見せた。しかし私はこの報告を受けるより前に、涼花ちゃんが学校へ行ったことは知っていた。それは涼花ちゃんのお母さんから電話が来たからだ。涙ながらに話す涼花のお母さんの声はとても嬉しそうだった。ありがとうございます。と何度も言われたが、全ては私の力では無い。大きく涼花ちゃんを動かしたのは雅之くんの力だろう。
それは愛の力……。
誰かを思う力……。
恋の力だ。
この世に愛とか恋の力を上回る物はないのだろう。


