今日も世界は愛で満ちてるというのに私の世界に愛は無い~愛を知らない私は愛を乞う


 そう声を掛けてきたのは吉川さんだ。あの日、僕が社長の息子だと分かった日から数日は大人しくしていたが、今はこんな風にすり寄ってくる。社内で騒ぎを起こした吉川と塚田はそれなりの処分が必要だと父や回りの役員達は言ったが、僕はあまり厳しい処分は止めて欲しいとお願いした。後々愛花さんに迷惑を掛けるのは嫌だった。報復とばかりに愛花さんが狙われるのは避けたい。そう思い処分を軽くしたのがいけなかったのか、吉川は僕にすり寄る。

「ねぇ?歩夢、今度食事に行こうよぅ」

 僕の腕にまとわりつきながら、甘ったるい声を出し、鼻につく香水を擦り付ける。本当に止めて欲しい。僕はするりと吉川の手をすり抜け、自分のオフィスへと向かう前に吉川に拒絶の言葉を投げかける。

「吉川さん、今は仕事中ですよ。仕事をして下さい。こういうことを社内でされると迷惑です」

「は~い。わかりましたぁ」

 ホントに分かってるのか分からない甘ったるい返事が返ってくる。回りも呆れたようにこちらを見ているというのに、どういう神経をしているんだか。あの騒ぎの後、吉川と塚田は孤立していると聞いてた。オフィス内でも浮いた存在となり、ヒソヒソされることが多く、小さくなっていると聞いていたが、吉川はもう復活したようだ。塚田は辞めそうだと話には聞いていたのだが、女は強いな。そう思いながら吉川に背を向けて歩き出す。そんな僕の背中を見ながら吉川が親指の爪を噛み、悔しそうな顔をこちらに向けていたことに歩夢は気づかなかった。