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それからの僕は凄まじく忙しかった。慣れない仕事内容に戸惑いながらも学ぶ毎日。ビシッとスーツを着こなして前を向くと、人の目が気にならなくなった。会社の人達が僕を見る目が変わってくる。女性社員から熱い視線を浴び格好いいと言われるが、愛花さん以外の女性に興味は無い。
だから女性からの好意を笑顔で交わした。
僕は変わるんだ。
愛花さんを幸せにするために。
僕はパソコンを前に手を動かす。社長のスケジュールや会社の営業状態、業績の確認と、やることがありすぎて目が回りそうだ。今までならすぐに逃げ出していただろう。しかし今はそれをしない。変わると決めたから。
壁に掛けられた時計を見ると時刻は20時を過ぎようとしていた。
さすがに残業しすぎたか、今はあまり残業を良しとしていない。昔と違いどこの会社も残業無しを掲げている。この会社もホワイトな会社にするため、残業は極力しないようにと言われているのだが致し方が無い。自分に力がなさ過ぎるのだ。スキルを上げるためには残業をするしか無い。父にも気負いすぎるなと言われたが今は自分を追い込みたい。
早くあの人に会いたい。
愛花さんあなたに……。
今日はやけに暑い日だった。車が行き交うアスファルトの上には陽炎が揺らめいている。そんな日差しを避けるように僕は足早に会社のオフィス内に入った。ふうっと一息つくと、そこに甘ったるい声が聞こえてきた。
「歩夢、おつかれさまぁ」


