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僕は吉川さんに振られて廃人のようになっていた時も会社に出勤していた。そんな僕にあいつらは面白がるように嫌がらせを続けた。そんなあいつらに対して思うところはあったが、ずっと黙っている日々だった。どんなに虐められても、惨めな思いをさせられても全てを飲み込み受け入れた。何を言われても、耳を塞いでいた。怒りを覚えた日もあったが、我慢し続けた。しかし愛花さんがあの場で僕をあいつらから救い出してくれた。自分が危険にさらされても僕を優先してくれた。
今度は僕が愛花さんを守りたい。
救いたい。
僕は一歩を踏み出す。愛花さんを守るための一歩だ。まずは容姿から整えよう。あの人の隣に立っても恥ずかしくないように、猫背も治そう。背筋を伸ばして前を見よう。
社長……父と話をした。
今までは会社を継ぐ気は無かったから、一般社員として底辺の仕事をしてきた。しかし会社の経営にも携わる仕事をさせてもらえないかと父に言うと、父は驚いた顔をした後、嬉しそうに目を細めた。
「あの子のためかい?」
あの子とは愛花さんの事だろう。僕はコクリと頷いた。
「そうか。それなら頑張るしか無いね。私は自分の子供でも仕事に関しては手を抜かないよ。覚悟は良いね?」
「はい。むしろ厳しくして欲しいです。今まで自分がどんなに甘えていたか実感しました。僕は力が欲しい。あの人を守るための、幸せにするための力をつけたいんです」
「分かった。すぐに人事異動をさせよう。私の側で仕事をしてもらうよ。良いね?」
「よろしくお願いします」
深く頭を下げる僕を見つめながら、父が目頭を押さえていることに僕は気づかなかった。


