涙の流星群

 美楽湖ホテルに向かう途中、ぼくらは休憩のため、談王(だんおう)サービスエリア下り線に立ち寄った。
 談王サービスエリア周辺はとても山深かったが、つまりそれは壮観な眺めでもあるということだ。

 ぼくらは車から外に出ると、きょろきょろとあたりを見回し、全員そろって歓声を上げた。

 様々な車やオートバイが駐車場に何百台もとまっている光景は、映画館の客たちを想像させ、ぼくの心を躍らせた。
 自然のよさを凝縮したような山々と青空の夢のコラボレーションである風景は、ぼくの目を釘付けにした。
 ここでしか吸えない空気はとても新鮮で、都会で慣れた砂利のような空気とは大違いだった。

 一言では言い表せない感動を、ぼくらは味わった。

 ひとしきり談王サービスエリアの風景を眺めたあと、ぼくらは休憩のため、サービスエリア内を歩き回ることになった。
 各自、このサービスエリアで昼食を摂るということになり、ぼくらは分散した。

 ぼくは牛串やらたこ焼きやら焼きそばやら、色んな屋台に目移りしながらも、サービスエリア内の建物のフードコートで、談王サービスエリア名物「旨辛カレー王スパゲッティ」を頬張った。

「旨辛カレー王スパゲッティ」というのは、カレー麺に旨辛カレーソースをかけたスパゲッティのことである。
 一見、シンプルそうに見える料理だが、これがまたうまい絶品のカレースパゲッティで、この限定メニューを食べるため、はるばる遠方から不眠不休でやってきた客もいるそうだ。

 恐るべし、「旨辛カレー王スパゲッティ」。

 実を言うと、この「旨辛カレー王スパゲッティ」は、ぼくが前々から気になっていた限定メニューなのだ。
 それがようやく食べられたので、ぼくはもう涙が出るほどに感激し、満足もした。

 実際、「旨辛カレー王スパゲッティ」を食べたとき、おいしさのあまり、ほっぺたが落ちた。
 余談だが、落ちた頬はあとで治療しましたとさ、めでたしめでたし。
 ……冗談である。

 それはさておき――昼食後、ぼくはY県でしか飲むことができない珍しい飲み物を買うため、建物内にある自動販売機の前にやってきた。
 が、ここで売られている飲み物は、どれもぼくらの町で売られているものだった。
 それで仕方なく、ぼくは屋外のほうの自動販売機を探すことにした。

 数分後、ぼくは建物から少し離れた場所にある自動販売機を見つけ、たちまち上機嫌になった。
 上機嫌ではあるが、無表情のまま、ぼくは自動販売機とにらめっこを開始した。

 どれどれ。

 そんなとき、ぼくは背後から「おい」と声をかけられた。
 おそらく、徹だ。

「自動販売機とにらめっこなどして、一体どうしたというのだ」

 無表情のまま、ぼくは後ろを振り返った。
 案の定、目の前には徹がいて、ぼくは徹を無表情で見つめることになった。
 が、徹を無表情で見つめることに気まずさを感じ、思わずぼくは苦笑した。

「分かりきったことを聞くなよ、徹。ここでしか飲めない飲み物を買うために決まっているだろう?
 ほら、せっかくこういうところに来たんだから、このエリア限定の飲み物を飲みたいじゃん。違うか?」

 徹は手のひらを拳で叩き、「なるほど、それもそうだな」と快活な声で笑った。
 それに釣られ、ぼくもクスリと笑った。
 そしたら、いつの間にかぼくらは大笑いしていた。

 限界まで笑ったぼくらだが、今度は急に我に返り、二人でこんな話をした。

「なあ、翔。おれたち、正しいことをしているよな。
 おれたち、間違ったことをしていないよな。
 おれたち、夏奈を幸せにしようとしているよな」
「……らしくないな。お前らしくないぞ、徹。
 何事も迷わないのが、徹のはずだ。そんな徹、ぼくは見たくもない」

 実際、ぼくは弱音を吐く徹のことが大嫌いだった。
 失望、とまではいかないが、相当ぼくはショックを受けた。

 このぼくのダメ出し、徹は重く受け止めているらしく、彼はうなだれた。
 ぼくは徹を傷つけてしまったことを深く後悔し、自分もまたうなだれた。
 が、その数秒後、徹が吠えた。

「ダメだダメだ、全然ダメだ!
 いつからおれは軟弱者になってしまったのか。
 恥ずかしいぞ、灰原徹。実に愚かだ、灰原徹」

 ぼくは驚きのあまり、後ろを振り返ってしまったが、すぐに徹のほうを見た。
 徹の不敵な笑みを見る限り、すでに彼は迷いを断ち切っていて、単純にもぼくはうれしさが込み上げるのが分かった。

 もはや、言葉などいらない。

 ぼくは徹と熱い握手を交わし、力強くうなずき合う。

 その後、ぼくと徹は自動販売機で限定品の飲み物を買った。
 その名も、「談王(だんおう)桃ジュース」。

 ぼくらは桃ジュースのペットボトルで乾杯すると、中身をゴクゴクと飲み干した。
 このときに飲んだ「談王桃ジュース」は、どの桃ジュースよりも格段においしく、そして格別の味だった。