3月に入り卒業式を終え、一段落着いた頃。
世の中はホワイトデー真っ盛りだった。
ホワイトデーの贈り物で売り場が溢れ返る中、私は買い出しをしている。
「そういえば今日はホワイトデーか・・・」
買い出しをしながら、チョコレートやクッキーなどが置かれているコーナーを見てボソッと呟く。
ホットなお返し!!なんでポップアップが書かれている中、私は買い物を済ませた。
奈央樹くんにチョコをあげたはあげたけど、お返しは来ないだろう。
なんせ、NAKIはチョコのお返しを返したことは無い。
私には無縁の日だ。
家に帰り、買ったものを冷蔵庫の中にしまい終え、リビングで少し一息つく。
「凛」
「ん、なに?」
「これ、欲しい?」
ガチャっとリビングの扉を開けて中に入ってきた奈央樹くんの方を振り返る。
すると、奈央樹くんはラッピングされた小さめの箱を手にしていた。
それは、恐らく・・・ホワイトデーのお返しだろう。
「えっ!?くれるの!?だって、NAKIはバレンタインのお返しとかしないのに・・・!!」
「あれはNAKIとしてじゃなく、奈央樹として受け取ったからね。お返しはするよ」
「えぇ〜っ、ありがとぉ〜・・・!!」
嬉しさのあまり手を差し出して奈央樹くんからラッピングされた箱を受け取ろうとする。
だけど、ヒョイっと腕を上げて手にした箱を私から遠ざけてしまう。
え、なんで・・・?
「・・・だめ。欲しいなら、ちゃんと言って」
「ミ゙ッ・・・ミ゙ィッ・・・!?」
手にした箱を私の口元に近付けたあと、その箱にキスをする奈央樹くん。
箱越しとはいえ、奈央樹くんの顔がこんなに近くにあるなんて信じられなくて目をパチクリさせてしまう。
「ほら、言ってごらん」
「ほ・・・欲しい・・・です・・・」
少しSっ気のある言い方の奈央樹くんにドキドキしながらも、何とか言葉を口にする。
いつもふわふわしてるから、そのギャップが凄い。
「・・・ん。よくできました」
「ひ・・・ひゃい・・・」
私が欲しいと伝えると、愛おしそうに笑いながら、手にした箱を差し出して来る。
それをおずおずと受け取った。
「あ、時間だ。じゃあ、俺 撮影行ってくるね」
そう言ってリビングから出ていく奈央樹くん。
パタン、と扉が閉じてしばらくした時、私の中で溜まっていた感情が爆発した。
「・・・へぁっ!?待って待って待って!?あのNAKIからホワイトデーのお返し!?はぁ!?家宝ものじゃん!!無理ぃ〜!!」
ソファーに倒れ込みながら貰った箱を潰さないようにジタバタと暴れる。
しかも、渡し方!!!なにあれ!?
とんでもねぇファンサだァ!!
そんなことを思いながら悶えていると、再びガチャっと音が聞こえてくる。
そして、奈央樹くんが扉の隙間から顔を出してこちらを向いていた。
「凛、言い忘れてたけどちゃんと食べてね。・・・俺の気持ち、こもってるから」
「ふぁ!?あっ、はい!!食べます!!」
「うん。じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい・・・」
今度はパタン・・・と扉が閉まってから再び開くことは無かった。
食べる、とは言ったものの・・・食べるの勿体ないな。
だけど、奈央樹くんが食べてって言ってたし・・・開けるだけ開けて、写真を撮ってから食べよう。
そう考えた私は、ラッピングされた箱を丁寧にあけ、フタを取った。
「カップケーキと・・・金平糖?チョコじゃないんだ・・・」
中に入っていたのはチョコではなく、カップケーキとキラキラした金平糖だった。
ホワイトデーのお返しってチョコレートが一般的だと思ってたんだけど・・・そうじゃないらしい。
でも、お返しはお返しだ。
写真を撮った後で大事に食べよう。



