面会票に家族みんなの名前を書いて、エレベーターホールで「上」のボタンを押す。
 到着を知らせるチャイムが鳴って、一階に降りてきたエレベーターのドアが開く。

 ひとり、降りてくる子がいた。
 乗っていたのは、僕よりうんと背の高いお姉さん。
 明るい茶髪をポニーテールに結って、グレーのセーラー服を着ている。
 首からさげたカメラがおしゃれだ。

 僕がちょうどいちばん前に立っていたから、その子と向かい合う形になった。

「……」

 時間にして二秒くらい。
 でも、何故だろう、時間が止まって感じた。

「ふふ」

 何も言わずにほほ笑むと、右に九十度向きを変えて、つかつかと去っていった。
 ──綺麗(きれい)なひとだったなあ。

「何してんの」

 後ろのお母さんに背中をつっつかれた。

「ぼーっとしちゃって。早く乗りなさい」

 いけない、お母さんににやにやした顔をみられたかなあ。
 あ、僕がいちばん前だから見えないや。よかった。

 ちょっとだけほっとして、僕たち家族はエレベーターに乗り込んだ。



 息を助けるたくさんの装置につながれて、そのひとは眠る。

「■■ちゃん」

 声をかけてみる。
 聞こえているように見える。
 あと二回呼んで、体を何回かゆすれば、目を覚ましそうだ。

 それくらい自然に、眠っているようにしか見えないんだ。

 優しかった■■ちゃん。
 どんなに僕がけんかしても、味方でいてくれた、■■ちゃん。
 朝が弱かった■■ちゃん……。

 そう、そうだよ。
 ■■ちゃんは朝が弱かった。
 だから今も寝起きが悪いだけなんだ。

 だから、ね。

 僕は体をゆする。
 ──ねえ、起きて。

「あお」

 ──ねえってば、■■ちゃん……。

「あお、よしなさい」

 お父さんに制されて、僕は涙をこぼしながら、その手を離した。

「大変お待たせいたしました」

 お医者さんが、病室に入ってきた。