【完結】きぃ子ちゃんのインスタントカメラ

 病院に着いた。

 下町中央総合病院。北九州の過疎化(かそか)した町にあって、不釣り合い(ふつりあい)なほど大きな総合病院。

 五年位前に改装工事(かいそうこうじ)が済んだばかりで、真白(ましろ)でクリーンなタイル張りの清潔感あふれるその病院は、命の危機にあるすべての人を守るための、砦。
 最新鋭の医療機器(いりょうきき)を武器にして、迫りくる死神たちを撃退する。

 今は、僕のお姉ちゃんを守ってくれている。

 面会票に記入して、エレベーターに乗った。
 きぃ子ちゃんに初めて出会った、あのエレベーターだ。

『どういうことか、説明しておくれよ』

 きぃ子ちゃんが、しびれを切らして僕に聞いた。

「お姉ちゃんの記憶の中にある、あの日の記憶を、探すんだ。そして僕に呼びかけるんだ」
『あの日のきみに、呼びかける……?』

「うん、あの日、けんかしてライフジャケットを脱いだのは僕なんだ」

『!』

 僕が知っていて、きぃ子ちゃんが知らないこと、それは正にそのことなんだ。
 僕は、エレベーターの階数表示のランプを見ながら、答えた。

「だからね、呼びかけるんだ。きちんとライフジャケットを着なさいって」
『待って』

 きぃ子ちゃんが僕の言葉を制止する。

『狐の窓は基本的には覗くためだけのものだ。呼びかけることなんて想定されてない。それにもし可能だとしても、相応の対価が要求される。つまり、それを実行するための、命が必要なんだ』
「命……」

 そうか。
 きぃ子ちゃんがお姉ちゃんとやった、陣取り合戦。
 まるばつゲーム。
 そして、きぃ子ちゃん自身を贄にしたカメラへの命の転写。

 それら全ては、すでにある命を賭けて成されてきたものだった。

「じゃあ、僕の命を賭けるよ」