【完結】きぃ子ちゃんのインスタントカメラ

「いやだ、いやだよっ! あさぎ、あさぎぃ!」

 目の前で息絶えてしまった親友を見て、わたしは半狂乱になりそうだった。

「どうしよう、どうしよう、どうすれば……」

 それでも、それでも何とかわたしの理性を繋ぎとめたのは、頭の中の、禁じられた秘術の知識のおかげだった。
 頭の中を総動員して、「今出来る術」を必死に考えた。
 魂呼ばい(たまよばい)布瑠の言(ふるのこと)延命十句観音経(えんめいじっくかんのんきょう)……。
 どれも「そこ」ではできなかったり、手元に贄とする素材がなかった。

「どうすれば……どうすれば、ねえ……」

 その時ふと、あさぎの首にかけられたモノに目が留まった。
 それは、あさぎのお気に入りの古いインスタントカメラだった。

『安西さん、あおの事、お願いね』

 ……。
 うん、あさぎ。
 任せて。
 きみの大切な弟は、わたしが守り通してみせる。
 次の二年後まで、寂しくないように、わたしがいちばんのお友達になって。

 わたしは、自分の命をあさぎに移すことを思いついた。
 本当は色々呪具(じゅぐ)がいるんだけど、時刻は四時二十分。「期限」まで十分もなかった。
 だから一か八か。もう躊躇(ちゅうちょ)などしていられなかった。
 幸いなことに、親友が(のこ)したこのモノは、カメラだ。ヒトやお化けの命を吸い取る力があった。

 だからわたしは、最後の賭けにでた。

 わたしはインスタントカメラを手にすると、校舎の階段をかけ上った。
 屋上の扉の鍵は開いていた。

 今度こそ、術を成功させるんだ。
 だから、怖くなかった。

 わたしは叫んだ。
 屋上を仕切る緑のフェンスの上に立って。

「月森あお君、見てて! わたしが今からきみの最高のお友達になってあげるから!」

 ぱしゃり。じー。
 わたしは、校舎の五階からふわり、と飛んだ。

 写真が写すは、真っ青な大空。
 落ちていくわたし。

 ──とても、綺麗(きれい)な青空だった。