その男の子は泣いていた。
下町総合病院の五階にある脳外科診察室の外の廊下で。
この子をひとりぼっちにしてはならない。
親友との約束だ。
全ては、わたしがまいた種。
全ては、わたしが起こしたこと。
わたしは、意を決して、声をかけてみることにした。
──たとえ自分が幽霊でも。
だって。
だれだって、寂しいのは嫌だろう?
だって。
だれだって、後ろめたいことくらい、あるだろう?
だって。
だれだって、ひとを好きになることくらい、あるだろう?
だから。……だから。
◇
「うわあ、釣り竿だぁ! いいなぁ、釣り。僕も行きたいなぁ」
きみ……月森あおが「それ」に興味を持ったところから、この物語は始まるんだよ。
わたしたち安西家ときみたち月森家は、仲が良かった。
神社とお寺という、宗派こそ違えど、お父さん同士が釣り愛好家で、釣ってきた海の幸を互いの家で振舞ったりしてパーティをしたりしていた。
そんなある二年前の五月のはじめ。
きみとたいようは三年生になったばかりだった。
お父さんがきみを蔵の掃除のお手伝いに呼んだ。
心優しくて、お友達を大切にするきみは快諾してくれて、我が家の社務所の裏にある蔵に、お父さんと、たいようと、わたしと、そしてきみの四人で、蔵の大掃除をした。
掃除を始めてしばらくして、蔵に仕舞っていたお父さんの古い釣り竿に、きみが興味を持った。
釣りに行ってみたい。
三年生の男の子が言うのも無理もなかった。
下町総合病院の五階にある脳外科診察室の外の廊下で。
この子をひとりぼっちにしてはならない。
親友との約束だ。
全ては、わたしがまいた種。
全ては、わたしが起こしたこと。
わたしは、意を決して、声をかけてみることにした。
──たとえ自分が幽霊でも。
だって。
だれだって、寂しいのは嫌だろう?
だって。
だれだって、後ろめたいことくらい、あるだろう?
だって。
だれだって、ひとを好きになることくらい、あるだろう?
だから。……だから。
◇
「うわあ、釣り竿だぁ! いいなぁ、釣り。僕も行きたいなぁ」
きみ……月森あおが「それ」に興味を持ったところから、この物語は始まるんだよ。
わたしたち安西家ときみたち月森家は、仲が良かった。
神社とお寺という、宗派こそ違えど、お父さん同士が釣り愛好家で、釣ってきた海の幸を互いの家で振舞ったりしてパーティをしたりしていた。
そんなある二年前の五月のはじめ。
きみとたいようは三年生になったばかりだった。
お父さんがきみを蔵の掃除のお手伝いに呼んだ。
心優しくて、お友達を大切にするきみは快諾してくれて、我が家の社務所の裏にある蔵に、お父さんと、たいようと、わたしと、そしてきみの四人で、蔵の大掃除をした。
掃除を始めてしばらくして、蔵に仕舞っていたお父さんの古い釣り竿に、きみが興味を持った。
釣りに行ってみたい。
三年生の男の子が言うのも無理もなかった。

