【完結】きぃ子ちゃんのインスタントカメラ

 裏切られたと泣く前に。
 裏切られたと怒る前に。
 裏切られたと傷つく前に。

 出来ることって、なんだろう。
 どんなことが、できるだろう。

 君ならなにが、できるだろう。



 二年と九十日目。僕の誕生日。令和六年八月十七日。土曜日。

 お昼の十一時半。
 エアコンをがんがんかけた部屋は涼しいを通りこして寒い。

 お気に入りのカーテンは閉め切っているけれど、東の角部屋にある僕の部屋は、電気を消していても薄明りくらいの明るさ。
 それが今の自分の心を映しているかのようで、余計に嫌なんだ。

「あおー、もうお昼よ、いいかげん起きなさい」

 部屋の外で、夕べから何も食べない息子を心配するお母さんが呼んでいる。
 けれど、僕は布団に包まっている。
 起きる気は、ない。

「どうしたのよ、昨日からあんなにしょげちゃって。今日はお誕生日でしょう。ほら、とうもろこし()でたわよ、一緒にたべましょう」
「ほっといて」
「……あのねえ、ほっとける訳ないでしょ」
「ほっといて!」

 お母さんはびっくりする。
 まくらを投げたから。
 ふすまに当たって、大きな音をたてたから。

 はあ。
 お母さんはため息を()くと、階段を下りて行った。