【完結】きぃ子ちゃんのインスタントカメラ

「タッチ!」

 口裂け女さんが叫んだ。ああ、駄目か。捕まってしまった──。

「捕まえたわよ、この悪ガキちゃんめっ!」

 ……あれ?
 気が付くといつの間に、きぃ子ちゃんが僕と口裂け女さんの間に瞬間移動していて、僕の代わりに押し倒されていたんだ。
 そう。タッチされたのはきぃ子ちゃんだったんだよ。

「きぃ子ちゃん!」

 僕は悲鳴を上げた。

 あの耳まで裂けた、恐ろしい口。
 サメよりもするどい、ぎざぎざの歯。

 きぃ子ちゃんがむしゃむしゃと食べられてしまう姿が目に浮かぶ。

「もうオバサンなんてシツレイなこと、二度と言わせないようにしてあげるんだからっ!」
「やめ──!」

 ぱしゃり。

 僕が叫んだその瞬間。
 きぃ子ちゃんは、かまれる〇.五秒前に、構えたインスタントカメラで口裂け女さんを撮っていた。

 暗い農道をまばゆいフラッシュの光が包み込んだと思ったら、そのお化けの姿が急に消えた。

 じー。

 数秒後。
 現像されたインスタント写真には、今にもかみつきそうな口裂け女さんの姿が映っている。

『あれ? あれれ? あたし、どうなっちゃったの?』

 再び可愛い声に戻った口裂け女さんが首をかしげる。

「はい、わたしたちの勝ちね、おばさん」
『そのオバサンっていうの、やめてよう……あたしまだ十五だよう』

 うえーん、うえーん。
 哀れ、十五でオバサン呼びされた可哀そうなお姉さんは、本当に滝のように涙を流して泣き出した。

 なんだかちょっと、胸がチクリと痛んだ。

「じゃあこうしましょ」

 きぃ子ちゃんは、インスタント写真を拾い上げ、悪い顔をしてにやりと笑った。

「ここにいるあお君。この子とお友達でいてくれたら。やめてあげる」
『ひっく。おともだちぃ?』
「そう。あお君とずっとお友達でいるって、約束できる?」
『……わかったよう。お友達になってあげますよう……はあ』