【完結】きぃ子ちゃんのインスタントカメラ

 世界が静かになった。
 さっきまで聞こえていた教室の壁かけ時計の音も聞こえない。

 私は押し黙って、その様子をうかがう。
 安西さんはスマホの通話終了ボタンを、とん、とタップして、動かなくなった。

 そして、どれくらい時間が経っただろう。
 五分? 十分?
 いや、三十秒も経っていないのかもしれない。
 彼女は振り返って私を見て、一言だけ、小さく告げた。

「よかったね。……勝負はあさぎの勝ちだよ……」

 安西さんは涙を浮かべながら、五年生の教室から走り去った。



 誰もいなくなった教室で。

 私は、自分の「お守り」をランドセルから取り出す。
 私の宝物、インスタントカメラだ。
 キャメルの持ち手が可愛くて気に入っている。

 ぱしゃり。じー。

 撮ったのは窓の外に咲く菜の花。
 金糸雀(カナリア)色の花びらのじゅたんはそよそよと春の風に吹かれて満開だ。

 私は「勝負」に勝った。
 たった二年間だけど、二度目のチャンスを勝ち取った。

「ふふ。よかったね。これでもう寂しくないでしょ」

 これからの二年間、どう生きようか。
 何を教えてあげようか。

 私は、黄色の素朴(そぼく)な花に命の喜びを感じながら、写真をランドセルにしまった。