世界が静かになった。
さっきまで聞こえていた教室の壁かけ時計の音も聞こえない。
私は押し黙って、その様子をうかがう。
安西さんはスマホの通話終了ボタンを、とん、とタップして、動かなくなった。
そして、どれくらい時間が経っただろう。
五分? 十分?
いや、三十秒も経っていないのかもしれない。
彼女は振り返って私を見て、一言だけ、小さく告げた。
「よかったね。……勝負はあさぎの勝ちだよ……」
安西さんは涙を浮かべながら、五年生の教室から走り去った。
◇
誰もいなくなった教室で。
私は、自分の「お守り」をランドセルから取り出す。
私の宝物、インスタントカメラだ。
キャメルの持ち手が可愛くて気に入っている。
ぱしゃり。じー。
撮ったのは窓の外に咲く菜の花。
金糸雀色の花びらのじゅたんはそよそよと春の風に吹かれて満開だ。
私は「勝負」に勝った。
たった二年間だけど、二度目のチャンスを勝ち取った。
「ふふ。よかったね。これでもう寂しくないでしょ」
これからの二年間、どう生きようか。
何を教えてあげようか。
私は、黄色の素朴な花に命の喜びを感じながら、写真をランドセルにしまった。
さっきまで聞こえていた教室の壁かけ時計の音も聞こえない。
私は押し黙って、その様子をうかがう。
安西さんはスマホの通話終了ボタンを、とん、とタップして、動かなくなった。
そして、どれくらい時間が経っただろう。
五分? 十分?
いや、三十秒も経っていないのかもしれない。
彼女は振り返って私を見て、一言だけ、小さく告げた。
「よかったね。……勝負はあさぎの勝ちだよ……」
安西さんは涙を浮かべながら、五年生の教室から走り去った。
◇
誰もいなくなった教室で。
私は、自分の「お守り」をランドセルから取り出す。
私の宝物、インスタントカメラだ。
キャメルの持ち手が可愛くて気に入っている。
ぱしゃり。じー。
撮ったのは窓の外に咲く菜の花。
金糸雀色の花びらのじゅたんはそよそよと春の風に吹かれて満開だ。
私は「勝負」に勝った。
たった二年間だけど、二度目のチャンスを勝ち取った。
「ふふ。よかったね。これでもう寂しくないでしょ」
これからの二年間、どう生きようか。
何を教えてあげようか。
私は、黄色の素朴な花に命の喜びを感じながら、写真をランドセルにしまった。

