【完結】きぃ子ちゃんのインスタントカメラ

 儀式の三日前。あの事故の当日。令和四年五月十七日。火曜日。

 私は、腰まである黒髪を右手でいじる。
 ストレスを感じている時によくやる、私のクセだ。

 蛍光灯の光が当たると青っぽく見える。
 私は別に何とも思わないんだけど、あの子は褒めてくれる。
 きれいだよって、言ってくれる。

 それはとても嬉しいのだけれど、今は。今は──。

 みんなは心が苦しい時、どう感じるかな。
 私はね、妙に世界が明るく見えるよ。

 それは、蛍光灯のせいじゃない。
 窓に映る車のヘッドライトのせいじゃない。

 ましてや救急処置室(きんきゅうしょちしつ)の「使用中」の赤い光のせいじゃない。

 どうしてかは、わからない。
 けれど世界が今、明るい。
 何から何までが明るく、美しく見えるんだ。

 この廊下ひとつ見回しただけで、それを感じる。

 私が今座っている、赤い長椅子(ながいす)
 クッションはふわふわ、ほこりひとつ付いていない。

 蛍光灯が反射する、夜景を映す窓。
 ぴかぴかに掃除されていて、鏡みたいだ。

 そこに映る夕暮れと山のシルエット。
 オレンジと深い群青色(ぐんじょういろ)のグラデーションを山々が漆黒(しっこく)に切り取っていて、とても綺麗だ。
 まるでそれは絵画のよう。

 私の横には、お母さんと、あの子のお母さん。
 ふたりとも泣き腫らして真っ赤な目をしている。

 そのふたりですら、今の私には美しくさえ見えるんだ。