あかね……ざか……びょういんまえ。

 辛うじてそう読める。
 でも裏手は(やぶ)(おお)われていて、かんじんの病院は見えない。
 バス停もぼろぼろ、()びてしまってほとんど読めない。

 どうやら、使われていないバス停のようだ。

「ねえねえ、そこのおばさん! わたしと遊びましょ!」
「えっ」

 気が付かなかった。
 きぃ子ちゃんの隣に、髪が長くて背の高い、赤いワンピースの女の人が、いつの間にかいる。

「おばさんって、キミねえ!」

 振り向いたのは、おばさんなんて言葉はとても似合わない、綺麗な十代真ん中くらいのお姉さん。

 白いリボンのついた麦わら帽子に、アンティークな旅行カバン。
 カバン片手に日傘を差すその姿は、きぃ子ちゃんに負けないくらい綺麗だ。
 ていうか、きぃ子ちゃんと年だってほとんど変わらないんだよね。

 口には、風邪だろうか、マスクをしている。

「あたしまだ十五なんですけどぉ!」
「いいからいいから、今からわたしたちのこと、追っかけてきてよ。……ほら、いくよ」

 ぎゅっ。きぃ子が僕の手を強く握った。
 こんな時でも、その手は冷たい。

「じゃあ、おばさん、オニねー?」
「な、な、なんてシツレイなっ! こおらー、まちなさーい!」

 お姉さんはそう言うとマスクを取った。

 その口は、耳まで裂けていた。