【完結】きぃ子ちゃんのインスタントカメラ

 瞳さんがそう言い終わると、辺りから何かがひび割れるような音が聞こえ始めた。

『それでね、私たちが最後の患者さんだったの』

 床や天井にシミや錆が広がっていく。
 大きな音を立てて、天井の蛍光灯が落ちた。

「そう……だったんだ」
「ねえ、ひろみくん」

 ん? ひろみ? 僕はあおだ、ひろみじゃない。

「行こう? バスが来ちゃうよ」

 口裂け女さん──瞳さんはそういうと、僕の手をぎゅっと握って、駆け出した。

「瞳さん、どこに行くの?」
「あはは。もうすぐバスが迎えに来るよ、もうすぐ」

 瞳さんはマスクを取って、楽しそうに笑った。
 バス停って、あっちかな。
 なんだかとても明るい。

「あはは、あはははは」

 待って、瞳さん、待って──。



 ぱしゃり。じー。

「はい、そこまで」

 きぃ子ちゃんの声がしたと思ったら、僕はバス停の前で立っていた。
 バス停はボロボロで、もう字も読めない。
 そして。

 瞳さんは写真の中だった。

「口裂け女さん、バレないと思った?」
「えへへ、思ってました」

 え? あれ?
 僕、何してたっけ。

「きみぃ、いけないよ。いくら口裂け女さんがおとぼけキャラでも、油断は禁物だ」
「一応、お化けだからね、あたしってば」
「そうそう、て、自分で言うなー」

 きぃ子ちゃんがテンション低めのノリ突っ込みをする。

「何を吹き込んだか知らないけれど、その子はわたしのだ。口裂け女さんにはあげられないなあ」
「はいはい、わかってますヨ」
「あお君。彼女がそうやって何人食べて来たか知ってる?」

 え。
 瞳さんが──口裂け女さんって、ヒトを食べるの?

「はいー、四十人ほどー」
「はああ」

 四十人っ?
 悪びれもせず、口裂け女さんはぽりぽりと頭をかきながら答える。

「……いいかい。お化けとヒトは、本来相容(あいい)れない。気を許すと、こうやって食べようとして来るのだから」

 そういって、きぃ子ちゃんは僕に口裂け女さんのインスタント写真を渡してきた。

「ほら、これでもう寂しくないでしょ。だから、ね。泣かないで」

 あれ?
 僕に言ったのだろうか。
 それとも……瞳さんに、言ったのだろうか。