【完結】きぃ子ちゃんのインスタントカメラ

「夏休みの宿題はどうだい」

 今年五十歳になるお父さん……平坂寺(へいはんじ)住職の月森そういちが聞いてきた。
 おじいちゃんのいない僕にとっては、お父さん兼おじいちゃんの、優しい優しい、お父さんだ。

 釣りが好きで、鳥辺野(とりべの)神社の神職さんとは、宗派(しゅうは)を超えた釣り仲間だ。
 でも、危ないから、と僕を連れて行ってくれることはないんだ。

「うん、まあまあやってるよ」

 本当はまだ、さんすうの宿題が半分以上残っているんだけど、わざと曖昧(あいまい)に答えておいた。

 お父さんは優しいけど勉強には厳しい。
 せっかくの夏休みの朝ごはんだもん。
 くどくどとお説教はご免だからね。

「それはよかった」

 そう言うと、満足気に、お母さんが作ったなめこと豆腐のお味噌汁をすする。

 お父さんは若い頃に、町の外からここ上町にある平坂寺に、婿養子(むこようし)としてやってきた。
 お母さん方のおじいちゃんからお寺を継いで以来、住職をやっている。

 檀家(だんか)さんもたくさんいて、この町全体のお父さんみたいなひとなんだ。
 もちろん、僕にとっても自慢の、大好きな優しいお父さんだ。

「ねえ、あのさ……知ってたらでいいんだけど……あさぎ……って子、知ってる?」

 僕は恐る恐る、聞いてみた。

「あさぎ?」

 お母さんがこちらを見た。

 僕のお母さん。月森すみれ三十九歳。

 住職だったおじいちゃんの一人娘だよ。
 なんでもおじいちゃんは、お母さんが小さなころからべたぼれで、箱入り娘として育ててきたらしい。

 お父さんと結婚する時、おじいちゃんは寺を継ぐこと以外に、色んな試練(しれん)をお父さんに課した。
 僕はそれがどんなものだったのか、今となっては知らないけれど。
 いま、お父さんがお父さんであるということは、ちゃんと全部クリアーしたんだとわかるんだ。

 だから僕は、お父さんもお母さんも大好きなんだ。

 僕を入れたこの三人で、月森家は「全員」。
「家族みんな」で食べる朝ごはんは本当に美味しい。