【完結】きぃ子ちゃんのインスタントカメラ

 ぴたり。
 一つ目小僧たちはまるで初めからずっとそうであったかのように、動きを止めた。

「怒った」
「怒った」
「あさぎが怒った」
「にげろ、にげろー」

 そう、ひそひそと話した後、蜘蛛(くも)の子を散らしたように、あっという間にいなくなってしまった。

「あ……」
「なーにやってんだか」

 僕とふたりきりになったきぃ子ちゃんがあきれたように言う。

「せっかく楽しく遊んでたのに」
「……みんなしてひとりねらいばっかり。楽しくなんてなかったよ」
「あお君の頑固(がんこ)ものめー。いったい誰に似たのかしらね?」

 そう言うと、きぃ子ちゃんは不意にインスタントカメラを構えた。
 ……目つきが怖い。

「あの……」

 びっくりした。急に後ろから声を掛けられた。

「さっきは、どうもありがとう」

 見ると、お鈴ちゃんがもじもじと、手を後ろで組んでこっちを見ている。

「鈴ね、運動が大の苦手で。いっつも最初に当てられちゃうの」
「ああ」

 気にしなくていいよ、そう告げると。

「男子相手でも、物怖(ものお)じしないで。かっこよかったよ、あさぎちゃん」

 ん?

「今なんて……」
「あさぎちゃんって、かっこいいよね。女の子なのに、男の子にも負けないで」
「え、えと、あさぎって」

 ぱしゃり。じー。

「はい、あお君。……これでもう、寂しくないでしょ」

 きぃ子ちゃんはいつもよりそっけなくそう言うと、一つ目小僧のお鈴ちゃんの写真を押し付けるように渡して来た。

『あさぎちゃん。あさぎちゃん。また遊ぼう……ね? 鈴は、あさぎちゃんのこと大好きだから』

 お鈴ちゃんの声は、僕の頭の中でいつまでも乱反射して鳴り止まない。



 このお話を読んでるみんなは、自分のことをどこまで知っているかな?
 全部知ってる?
 うん、それはいいね。幸運なことだね。

 でも、もしも君の家族が。大切な人が。友達が。
 自分の知らない自分のことを話してきたりしたら?
 全く知らないことを、知っているかのように話すのを見たら、どう思うだろう。

 実はそれは、とても怖いことかもしれない。

 でも、大丈夫。
 ひとつづつ記憶のふたを開いていけば。
 最後には希望が残されていることを、きっと知るだろうから。