二年と八十二日目。令和六年八月九日。金曜日。

 ミーンミンミンミン──……。

 斜陽(しゃよう)でオレンジ色に照らされた夏の山道。
 ミミズが干からびて死んでいる。

 僕の心も、干からびて死にそうだ。
 のどが(かわ)いた。
 冷たい水が飲みたくって仕方がない。

 夏休み、学校で遊んだ帰り道。
 ぶすっとほっぺたを膨らませて。

 またすり傷が増えた。
 けんかをしたんだ。

「なんだよっ。みんなしてさっ」

 今日は夏休みだけど校庭に遊びに行ってみた。
 学校の宿題は順調だし、携帯ゲーム機で遊ぶのにも飽きた。

 我が家はお寺、その名も平坂寺(へいはんじ)
 お父さんは住職で、お母さんはスーパーでパートをしている。

 つまり、昼間は誰も家に居なくて寂しいのだ。
 わざわざ友達のいない学校に行くのも、ただそれだけの理由だったんだけど。

 案の定クラスのみんなが集まっていた。
 わいわいとボールを投げている。
 ドッヂボールをしているみたいだった。

『寂しいからって、ひとを叩いてはだめよ。僕も仲間に入れて、きちんとそう言わなきゃ』

 担任のけいこ先生に、いつもいつもそう言われてきた。
 だから今日はそれを実行してみようと思った。

『僕も入れて』

 嫌われ者の僕は、持てる勇気を全部振りしぼって、呼びかけてみた。
 それなのに。

「あんなにみんなして……狙わなくたってさ……」

 涙がにじんだ。悔しかった。
 目をごしごしとこすって、鼻水をすすった。