二年と六十日目。令和六年七月十八日。木曜日。

 ミーンミンミンミン──……。

 セミがこれでもかと言うほどに鳴いている、いつもの山のいつものアスファルト。
 夕影(ゆうかげ)に照らされ、茜色に染まった空には入道雲がもくもく。
 遠くで雷さまが鳴っている。
 あっちは隣町の方かな、今頃きっと夕立だろう。

 学校も明日までだと思うと、自然と心が高ぶって、心なしか足も軽い。

 あと五分も歩けば鳥居(とりい)が見えてくる。
 上町と下町のちょうど境にある、鳥辺野(とりべの)神社だ。
 神社の入り口は南側を向いていて、丹色(にいろ)の鳥居が目印だ。
 田舎の山にあるとは思えないくらい綺麗に塗られて、夕日に輝いている。

 そう、そしてその鳥居の影に……。

 ぱしゃり。じー。

「やあ、きみ。来たね」

 やった!
 僕の最高のお友達で、それでその……大好きな、きぃ子ちゃん。
 お洒落なインスタントカメラを構えて、今日もまぶしい笑顔だ。

「ふうん。今日はなんだかご機嫌だ。いいことあった?」

 現像された僕の写真を手渡しながらにやりと笑う。
 そこに写る僕は、嬉しそうというよりなんだか間抜け面してる。

「もう、撮るときは撮るって言っててばー。写真に撮られるの、好きじゃないんだ」
「おや。あんなにいっぱい撮ってもらってたのに?」
「?」

 写真からきぃ子ちゃんに視線を移す。
 琥珀色(こはくいろ)のポニーテールがきらきらと光っている。
 澄んだトパーズの瞳は、僕をとらえて離さない。

「あんなに嬉しそうに、喜んでいたのに?」