【完結】きぃ子ちゃんのインスタントカメラ

 かちゃり。きいい。

 ほどなくして、僕の今いる男子トイレの扉が、とてもゆっくりと開いた。

「つ──きも──り──くん。あ──そび──ましょ──……」

 声が、違う。
 きぃ子ちゃんの声じゃない。
 巡回の看護師(かんごし)さんの声でもない。

 もっと幼くて、もっと血の気の通っていない、無機質で、ノイズだらけで──。

 こんこん。

 僕がいるのは入り口から三つ目の個室だ。

 こんこんこん。

 その声の主は、いちばん入り口側をノックしている。

「つ──きも──り──くん──」

 消え入りそうなその声は、否が応でも背筋を凍らせる。

 こんこん。こんこんこん。

 ノックの音が近づく。心臓が胸の中で爆発しそうなほど鳴りひびく。
 そして。

 ──こんこん。

「みぃ──つけたぁ──」

 僕がハッとして扉の上を見上げると。

 四歳くらい。
 血の気の全く感じない青白い顔のおさげの女の子が、にたにたと笑ってこっちを見ている。

「……!」

 僕は便座から立ち上がって逃げようとした。
 けれど、腰が抜けてしまって動けない。
 恐怖の余り声も出ないんだ。

「遊ぼうよぉ──、つきもりく──ん!」

 扉をよじ登った花子さんがそう口にしたのと、鋭く尖った歯の並んだ口を大きく開けて、飛びかかってくるのは同時だった。